幹細胞・幹細胞培養上清液について
「幹細胞」という言葉は一般的に知られていますが、「幹細胞培養上清液」についてはまだ馴染みが薄いかもしれません。この上清液は、幹細胞から取り出した培養液の上澄みで、その効果を理解するには幹細胞の機能について知ることが重要です。以下に、それぞれの力について説明します。
多様な種類の細胞を生成する特別な能力を秘めた幹細胞
幹細胞は生物の体の基盤となる細胞であり、木の幹が様々な枝葉に分かれて成長するように、臓器や組織を形成するために必要な血液細胞、筋肉細胞、神経細胞などの機能細胞を生成できる特別な細胞です。皮膚の傷が癒えるのは、皮膚に存在する幹細胞が新しい皮膚細胞を生み出すからであり、肝臓が再生するのも肝臓の幹細胞が肝細胞を生成するからです。要するに、幹細胞は人間の自然治癒力の鍵を握っているのです。
自己複製能と多様な分化能を併せ持つ特異な性質を有する幹細胞
機能細胞と異なり、幹細胞は何度でも分裂し、自己と同じものを生成する能力である自己複製能を持っています。同時に、幹細胞は自らとは異なる多岐にわたる機能を有する細胞に分化できる能力(多分化能)も備えています。この自己複製能と多分化能の双方を有することが、幹細胞がさまざまな種類の細胞を生成できる独特の力をもつ理由です。
幹細胞が新しい細胞を生成することにより、身体は絶えず変化し、健康な状態を維持できる。
私たちの身体は、常に同じ状態に見えますが、実際には絶えず変化しています。生命を維持する機能細胞は一定の寿命があり、新しい細胞が絶えず生まれ、入れ替わることで新陳代謝が行われています。たとえば、赤血球は120日で寿命を迎え、肝臓の細胞は200日、皮膚の表皮細胞は2~7日で再生します。寿命を迎える細胞は「機能細胞」と呼ばれ、これを補うために新しい細胞を生み出す役割を果たすのが「幹細胞」です。
老化は幹細胞が減少していること
人間の体が老化する背後には、幹細胞の数の減少が関与しています。私たちの体は約200種類、37兆個の細胞で構成されています。生命を維持する全ての組織や臓器は、機能細胞が集まって形成されています。これらの機能細胞はそれぞれが寿命を有し、寿命を迎えると自ら死に、そして幹細胞が新しい細胞を生み出すサイクルが絶えず繰り返され、健康を維持しています。たとえば、骨髄や脂肪に存在する間葉系幹細胞は、新生児を1とした場合、10代では1/10、80歳では1/200に減少するとされています。老化に伴い幹細胞が減少すると、傷の修復や骨折の治癒が難しくなります。しかし、80歳であっても1/200の割合で幹細胞が残存し、再生する可能性があります。この再生能力を再生医療で活かすことが期待されています。
幹細胞培養上清液とは
細胞培養時の上澄み液が持つ重要な役割
「幹細胞培養上清液」とは、幹細胞を培養する過程で得られる上澄み液のことを指します。通常、幹細胞の研究や治療法では、培養した幹細胞を増殖させ、それを移植する幹細胞移植が一般的でした。しかし、名古屋大学大学院医学研究科の上田実名誉教授グループの研究により、上澄み液にはサイトカイン(成長因子)が豊富に含まれ、これが細胞の再生において重要な役割を果たしていることが明らかになりました。これにより、幹細胞培養上清液の有効性と安全性が再評価されました。
幹細胞培養上清液の重要な効果
様々な生理活性物質が含まれている幹細胞培養上清液の主な4つの生物学的な効果があると言われています。これらのサイトカインが組織や臓器の再生環境を整え、再生が期待されます。
01.抗炎症効果
幹細胞培養上清液に含まれる生理活性物質が炎症を抑制し、組織の炎症を和らげることで再生環境を整えます。
02.細胞増殖・分化促進効果
サイトカインは細胞の増殖と分化を促進し、損傷した組織の修復や再生をサポートします。
03.血管新生促進効果
幹細胞培養上清液の成分は血管新生を促進し、組織に十分な酸素と栄養を供給することで再生を促進します。
04.抗酸化・抗ストレス効果新たな血管を作る機能
幹細胞培養上清液には抗酸化物質が含まれ、細胞への酸化ストレスから保護されることで、組織の健康を維持し再生を促進します。
幹細胞治療と幹細胞培養上清液治療の違い
治療法としての安全性が高い幹細胞培養上清液治療
以下は、従来の幹細胞治療と新しい幹細胞培養上清液治療の治療プロセスを比較した図です。両者は同じ効果を目指していますが、治療の進行方法は大きく異なります。 幹細胞培養上清液治療は、様々な点で幹細胞治療と比較して優れており、これにより多くの患者が治療を受ける可能性が拡大するでしょう。また、細胞が含まれていないため(セルフリー)、ガン化などのリスクが極めて低いという利点もあります。
羊膜・臍帯血由来の幹細胞培養上清液について
他の様々な幹細胞培養上清液が存在する中で、一般的な脂肪だけではなく羊膜と臍帯血を由来とした幹細胞培養上清液に注目が集まっています。
羊膜・臍帯血幹細胞培養上清液に注目する理由
サイトカインが多種多様
いろいろな病気への効果が期待
幹細胞培養上清液を精製するためには、幹細胞を使用します。代表的な幹細胞には、下記4つが知られています。
❶子供の乳歯から採取する「乳歯由来の歯髄幹細胞」
❷骨髄から採取した「骨髄由来の幹細胞」
❸人間のお腹の脂肪から採取する「脂肪由来の幹細胞」
❹赤ちゃんの羊膜や臍帯血から採取する「羊膜・臍帯血由来の幹細胞」
一般的な❸の「脂肪由来の幹細胞」だけではなく、❹の「羊膜・臍帯血由来の幹細胞」で製造した培養上清液(羊膜・臍帯血由来幹細胞培養上清液)は非常に注目を集めています。まず、羊膜と臍帯血は、幹細胞が豊富に含まれており、その採取が比較的容易で痛みや負担が少ないという特長があります。これにより、患者様が安心して治療を受けることができます。羊膜は胎児にとっての保護膜であり、成長因子や細胞外マトリックスなどが豊富に含まれています。これらの成分が治療において再生・修復を促進する役割を果たすと考えられています。臍帯血もまた、胎児から採取されることで、多様な種類の幹細胞が取得されます。羊膜と臍帯血はそれぞれ異なる特性を持ち、治療において相互補完的な役割を果たすと考えられており、これにより、患者様に最適な治療が提供できるのです。
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